「まあ、このくらいの山なら余裕でしょ」そんなふうに思って登り始めたら、想像以上にキツくて後悔…なんて経験ありませんか?
登る前は俺様キャラの状態で計画したルートを実際に歩いてみたら、女性や高齢者にも次々に追い抜かれるほどへばってしまった。
「自分なら行ける」と考えていたのは大いなる勘違いだったと認めざるを得ない瞬間です。
自分ってこんなに体力なかったんだと、厳しい現実を突きつけられプライドは無惨にも砕け散りますが、普段運動をしていない初心者にありがちな光景です。
自分ひとりが情けない思いをするだけなら問題ないのですが、事故に繋がったり同行者にもそのリスクが及んでしまうようなら話は別です。
経験が浅いうちは自分の限界を見誤り、無理な行動をとってしまうことが少なくありません。必要以上に過小評価する必要はありませんが、自身の体力については少し謙虚になって登山計画を立てましょう。
行ける気がするの落とし穴
「このくらいなら歩けるでしょ」と判断を誤る危険性は、初心者だけでなくある程度経験を積んだ登山者もやりがちです。ですがやはり初心者の頃は自分の体力を客観視するのは難しいものです。
経験者と同行するなら適切なコースを選んでくれるでしょうが、ソロで臨むとなると無謀な計画を立てかねません。
計画段階で見積もりが甘かった場合は到着時間に遅れが生じることになります。明るいうちに目的地に着ければよいのですが、陽が暮れても到着できないようでは自分及び同行者の体力に合った登山計画とはいえず、はっきり言って失敗です。
暗くなってくると焦りも出て判断力が低下し、事故の危険性が上ります。
場合によっては山小屋のスタッフから厳しい言葉を掛けられることも。
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特に若くて体力がある年齢だと「意外と行ける」「思ったより楽だった」という成功体験を積んでしまい、それが謎の自信に繋がっていきます。
根拠のない楽観主義と思い込みは留まることを知りません。でもそこで冷静になる必要があります。
今までの成功体験は天候に恵まれていたからかもしれませんし、体調が絶好調のときばかりだったからかもしれません。
そんな好条件に恵まれていなくても、若い時代は体力で乗り切れることが可能なことも多くあるのですがタチが悪いのが中高年から登山を始めるパターン。
普段ろくすっぽ運動していないのに年齢を重ねても何故か体力は昔のままのはずという、どう考えてもおかしいでしょという思い込みをしている人も多く見られます。
「根拠のない自信とは違う、自分には実績があるんだ」と思いたいでしょうが、残念ながら年齢とともに体力は確実に低下していきます。
ヤマレコやヤマップで凄いコースタイムをたたき出している登山者はいくらでも見つけられます。それを見て自分も行けると思うかもしれませんが、多くの場合は悲しいことに単なる思い上がりです。
関連記事:登る山の選び方【初心者向け】
登山におけるダニング=クルーガー効果
普段からジムに通っていたり、ジョギングをしている人は「自分はそこそこ体力あるでしょ」と思いがちです。実際に何も運動していない人と比べたら確かに体力はあるでしょう。
ですがそれは平地での話です。登山では坂を上がったり下ったり、更には標高も高いので空気は薄くなり条件が違います。更には重い荷物を何時間も背負って歩きまわるといった、日常生活とは比べ物にならないほどの運動量になります。
特にガイドブックやネットで初心者向けと紹介されている山だと、体力が不要というわけではないのに楽なコースと思い込んで必要以上に甘く見る可能性があります。
実際に歩き出してみたら「あれ?思ったより息上がるんだけど……」という思いをしながら登山経験を積んでいきます。
ダニング=クルーガー効果という言葉があります。認知バイアスのひとつで能力の低い人や経験の浅い人が自分を過大評価してしまい、自分ならできると思い込んでしまう現象です。
ダニング=クルーガー効果には馬鹿の山や絶望の谷といった言葉がありますが、体力に見合わない計画を立てている段階が馬鹿の山で、「こんなはずでは」と思いながら歩っているときが絶望の谷の状態です。
その先に啓蒙の坂と継続の大地があります。自分の体力を正確に認識するのが啓蒙の坂で、適切なコース選びができるようになるのが継続の大地に当てはまります。
・絶望の谷=実際に登山をしながら「想像してたよりツラい、ムリかも」
・啓蒙の坂=下山後反省して「思ったほど自分には体力がなかった、普段のトレーニングが必要」
・継続の大地=次の登山を計画「今の自分の体力レベルだとこの山はまだ早いから別の山にしよう」
傍から見ると滑稽に思えるかもしれませんが、誰にでも起こり得ることなので笑えません。
馬鹿の山と絶望の谷を繰り返して、啓蒙の坂にたどり着けないのは進歩していない証拠です。
月に1回の登山では体力は向上しない
よくいわれることですが月に1回程度の登山では、その登山がどのようなレベルであっても体力は向上しません。次の登山までにその効果がリセットされてしまいます。
勘違いしている人が多くいそうですが、月1回の登山程度では登山をやっているからといって、自分は他人より体力があるとは思うのは早計です。
登山で体力をつけるには月に3~4回は必要と言われていますが、時間とお金にある程度余裕がないをなかなか難しいですね。それでもSNSを覗いていると毎週のように山に出かけている人を見かけるので不可能ではなさそうです。
体力をつけようと思うなら週に2~3回の筋トレや有酸素運動が必要です。そんなにしないとダメなのかと思うかもしれませんが、現実はキビシイものです。
元の体型や体力にもよるので一概にはいえませんが、ちょっとやったくらいでは筋力や心肺機能はなかなか思ったほど向上しません。特に年齢が上がれば尚更です。
いままで何も運動をしてこなかった人が週1回程度ジムに通うようになっても、体力が劇的に向上するのは至難の業です。
そうはいっても普段から体力の底上げはやって損はありません。
サプリメントの活用は有効だがやはり体力は必要
アミノ酸やクエン酸をはじめとして登山でサプリメントや栄養補助食品を上手に活用するのは疲労を軽減するための有効な手段です。
疲労回復や体力不足を補うのにサプリメントを利用するのとしないのでは、実感できるかどうかは別として身体にとって確実に違いが生まれます。
ただし注意したいのはサプリメントを摂取することでパフォーマンスや身体へのダメージを抑えることが可能なのですが、体力が不足していても大丈夫というわけではないということ。
足りない体力を補うという言い方がよくされており、確かにそのとおりでもあるのですが、だからといってサプリメントを摂取しているから大丈夫というのは危険な考え方です。
サプリメントを活用することで、今まで体力が不足して登れなかった山にも登れるようになるというのではなく、なんとか登れていたレベルの山に以前よりも余裕を持って登頂できるようになるというのが事故から遠ざかる考え方です。
言うまでもありませんがサプリメントを摂取しているから遭難や事故に遭わないということでは全くありません。
まとめ
所詮趣味でやっている登山に体力がないなら登る資格がないなどという主張はある種の極論でしかなく、そのようなことを言うつもりはありませんが、アクシデントがあったときに命に係わる可能性があるアクティビティである以上体力は最も重要な要素のひとつであることに変わりはありません。
初心者は自分の体力を無意識に過剰評価しがちです。常日頃から自分の体力維持や向上の努力は意識して行った方がいいに決まってます。特に若さでなんとかなるという年齢を過ぎてしまったら尚更、リスク管理や心理的な余裕を持つためにも体力過信はリスキーでしかありません。
もちろん若くて体力があっても事故る時は事故るのが登山なのですが、遭難事故の年齢別データを見ても高齢者がその多くを占める以上やはり体力は正義というのは揺るぎない事実です。