どうせ登山をするなら晴れ空で天気が良く時々心地よいそよ風が吹くような日であってほしいものです。ですが現実は曇っていたり雨が降ってきたりと、なかなか希望どおりにはいきません。
山の天気予報をチェックする際に晴れや雨のお天気マークや気温、降水確率は必ず確認しますが、風速の確認はついつい疎かになっていませんか。風の影響を考慮に入れておかないと晴れマークで降水確率も0%だったから快適な登山を期待してきたのに、思ってもみなかった強風に面食らうことになります。
風はやっかい
経験の浅い初心者のうちは風が登山の難易度を上げてしまうとはあまり考えないかもしれません。雨が降っていなくても風が強ければ登山の条件は下がります。
実際に強風の中での登山を経験すると想像以上に困難であることが実感できます。体が持って行かれそうなほどの強風ではなく、そこそこの風でも登山の行動に影響を及ぼすものです。言うまでもなく雪山での強風は難易度が格段に上がります。
登山の数日まえから当日まで天気予報をチェックするとは思いますが、基本的にはあくまでも街中の予想なので鵜呑みにするのは危険です。山では天気予報とは違うことも珍しくありません。
風の強いことで有名なのは冬の富士山や那須岳の峠の茶屋跡付近、木曽駒ヶ岳の乗越浄土、硫黄岳(八ヶ岳)などが有名ですが、基本的にどこの山でも強風に遭う可能性はあると思っていた方がリスクヘッジとなります。
おおよそ風速15メートルを超えたら登山の中止や撤退がチラついてきますが数字だけでは判断できません。大雨ならともかく風ごときで登山を中止したくはないのは人情かもしれませんが、勇気ある中止・撤退が必要なケースもあります。
登山における風によるリスク
風のリスクは一年中あります。もちろん寒さの厳しい冬が最もリスクがあるのですが、夏でも決して侮れないものです。
風が及ぼす影響は寒さだけではありません。精神的にもダメージを受けます。時としてそれがトラブルの原因となる可能性も孕んでいます。
低体温症の危険
登山における風のリスクで真っ先に思い浮かぶのが低体温症です。風速が1m/秒で体感温度が1℃下がると言われています。
雨や風で掻いた汗が冷やされると低体温症になる可能性があるので、なるべく汗を掻かない、そして掻いた汗は肌から離すような工夫が必要です。真夏の暑い季節ならどんどん汗は乾いていきますが、そんな夏でも低体温症に陥ることがあります。
たとえ速乾性のあるベースレイヤーを着ていても濡れた状態で風に当たれば体温はどんどん奪われていきます。季節を問わず防風性のあるウェアは必需品です。
転倒や滑落の危険
風が吹いていれば転倒や滑落のリスクが上ります。急斜面や切れ落ちたそばの登山道などの危険個所だけでなく、滑りやすい木の根や凍結したところなどでも強風の下では通りたくありません。
ある程度以上の強風になると体の重心のバランスがとりにくくなりますし、足の着地点がブレることもあります。体の軽い人は特に注意が必要です。このくらいの風なら大丈夫と思っていても、突然突風になったりと風は一定の強さで吹いているわけではありません。
風の強い日はザックカバーは煽られて危険なので使わないようにしましょう。
判断力の低下
風を受け続けているとだんだんとストレスが溜まってきます。風向きによっては行く手を阻まれているようにも感じられ、心の中で「邪魔すんな」と吼えながらも前に進まないと目的地には着きません。
風を受け続けることによるストレスや時間の遅れによる焦りの影響で判断力が低下してしまうことも。自覚はないかもしれませんし、認めたくないかもしれませんがそれは軽いパニックです。事故が起きる一歩手前、いわゆるインシデントの状態です。
経験を積むにつれて慎重な判断が下せるようになりますが、人間はちょっとしたきっかけで冷静さを失ってしまうものなのでどんなベテランになっても自分は大丈夫とは思わないこと。
視界が効かないことも
風が直接の理由ではありませんが、雪や大雨を伴っていると周りが見通せず道迷いの原因になります。視界が効かない状態で風向きが頻繁に変わるような状況だと方向感覚は簡単に無くなる上、判断力も低下していれば容易にルートロスします。
ドツボにはまる前にGPSを上手に活用しましょう。
体力を消耗し行動が遅くなる
特に風上に向かって進むのは余計に体力を使うので、気持ちも削がれますが体力も消耗します。
風によって進むスピードが落ちるので当然予定していた時間よりも遅れ気味になります。早く目的地に着きたい気持ちを抑えてより慎重に行動すること。
小さい荷物が飛ばされる
メガネやサングラス、帽子といったザックの外にある小さな荷物は飛ばされる恐れがあります。特にメガネを失くすとシャレにならないのでストラップがあると安心です。
飛ばされた荷物を拾いに行くのは惨めな気持ちになりますよね。
紙の地図を広げられない
予定より行動が遅れると地図であとどのくらいで目的地に到着するのか確認したくなりますが、紙の地図を広げて落ち着いて見るのは一苦労です。更に強風の中で地図を元通りに折りたたむのは至難の業です。
地図を見るなら風をよけられる場所に移動するか、スマホの地図を活用しましょう。
登山に行く時の絶対条件として地図を持っていくことが挙げられます。それが例え低山でも、何度も登ったことのある山でも地図を持たずに山に入るのはリスクを上げることに直結する行為となります。警視庁の統計によると山岳遭難の原因トップは道迷いです。[…]
髪が長いと鬱陶しい
髪が長い人はうっかり束ねていないと大変ですし危険でもあります。鬱陶しいと思いながら髪の毛が風に煽られているのに気を取られていると、注意力が散漫になって思わぬミスをしてしまうかもしれません。
テントは要注意
山小屋泊では小屋の中に入ってしまえば安心ですが、テント泊だとまず張るのに一苦労です。ソロの場合は特に苦労します。張る際にテントの入り口は風下が原則です。
張綱もしっかりとたるみのないように張らないといけません。まあいいかで済ませてしまうと後で後悔します。
強風でポールが曲がったり折れたりする可能性もあります。折れた瞬間心も折れますが、そのままにしておくわけにはいかないので修理が必要です。
風への対策と対応
天気予報を確認するときは風速も見るよう習慣づけましょう。詳しく読める必要はありませんが等圧線の感覚が狭いところは風が強いくらいのことは覚えておいて損はありません。Windyというアプリは風の流れが一目で把握できる優れモノです。
体温を守る
防寒は風対策の基本です。必ず防風性のあるウェアを用意してください。無雪期ならレインウェアの他に薄い生地のウィンドシェルがあると便利です。軽量で適度な防風性を備えており手軽に着られるのでとても便利です。ただしレインウェアの代わりにはなりません。
肌に触れるウェアは速乾性がある素材が基本ですが、汗を含んでもヒンヤリしないメリノウールという選択肢もあります。
ベースレイヤーの下にドライレイヤーを着用して汗を肌から離すのも汗冷えを防ぐ有効な手段です。暖かさは保温性のあるミッドレイヤーで確保します。ベースレイヤーで速乾性、ミッドレイヤーで保温性、アウターで防風性を担うのは冬だけに限った話ではありません。
シーズンに合わせたグローブも用意しましょう。たとえ冬でなくても風に晒されつづけると気が付いたら指が思うように動かなくなることもあります。過去に9月にそのような状況になってしまい、えらい難儀した覚えがあります。
雪山での強風はあまりの寒さに痛さを感じることもあります。帽子はもちろんネックゲイターやバラクラバがないと耐えられない状況も珍しくありません。
言うまでもありませんがウェアだけでなく行動食や暖かい飲み物で内側から体を温めることも重要です。
もし体温が下がってきたらツェルトを被って凌ぐことを選択肢に入れておくのも危機管理の一つです。ツェルトを張る余裕なんてありませんから被って座るようにして使います。ボックス型のツェルトであるエム・シェルターなら通常のツェルトよりも簡単に使用でき緊急の停滞用としてはもってこいです。
イラつかず落ち着いて行動
落ち着いて行動するのは風が強い時に関わらず登山の基本ですが、強風にずっと煽られていると結構イラついて早くこの状況から脱したい気持ちになるものです。気持ちに余裕がないと判断力が低下しますし、慌てることで転倒などのアクシデントを引き起こす羽目になります。
急いで行動すれば汗をかいてしまうので、汗冷えの点からいってもよくありません。
ストックやピッケルでバランスを確保
ストックやピッケルでバランスを保てば転倒を防ぎやすくなります。ただしストックの場合はあまりに風が強すぎると役に立たないばかりか、ストックの先が煽られて周りの登山者に対して危険になることもあるので注意。
雪山で強風に合うとピッケル無しでは恐ろしすぎます。
撤退やエスケープ
停滞や道迷いなどで時間をロスしてしまうと当然撤退やエスケープを迫られることになります。風が強くで登山を中止するなんてと思うかもしれませんが、雪山で視界もままならず体を揺さぶられるような強風に晒されているとさっさと下山したくなります。
雪山に限ったことでなく、ムリかもと感じたら強行突破するのではなく潔く中止しましょう。「山は逃げない」という言葉はこういう時にこそ思い出して下さい。
強風の中、無理を通して登り切ったとしても残念ながらカッコよくありませんし、誰も褒めてくれません。たまたま遭難しなかっただけです。
テントのポールが折れたら
風が原因とは限りませんがテントのポールが折れてしまったらその場凌ぎでも修理しないといけません。リペアパイプとテープでつなぎ合わせます。テープは布テープやガムテープが一般的ですが荷物として負担にならないのはダクトテープです。
もしリペアパイプがないなら断面がV字やU字型のペグを2本使ってポールを挟み込むようにしてテープでぐるぐる巻きにする方法もあります。
まとめ
風ごときと思いたいものですが、ナメでかかると意外と苦労させられます。そよ風ならば火照った体をクールダウンしてくれてありがたいのですが、夏以外の季節ではそうでないケースのことが多くあります。
天気予報を確認するときは風速も見る習慣をつけましょう。