涸沢といえば涸沢カールを連想しますが、涸沢岳という山もあります。奥穂高岳と北穂高岳に挟まれなんとなく存在感が薄く、山頂もそっけない感じの山なのですが、涸沢岳と北穂を結ぶルート上にはクサリや梯子が所々に出現し中々スリルに満ちています。
8月の下旬に涸沢ヒュッテにテントを張り、アタックザックで北穂高~涸沢岳~奥穂高のコースをぐるっと回ってきました。涸沢岳の山頂のみを目指すならザイデングラードから穂高岳山荘を経由してすぐに登れます。比較的に安全で無難なコースですが、それでは面白味がありません。涸沢岳と北穂の間こそこのコースの醍醐味です。
涸沢岳の標高と難易度
涸沢岳は標高3,110メートルで国内の山では8番目の高さです。標高トップ10の中で最も地味な存在といえます。
名称 | 標高 | 山域 | |
1位 | 富士山 | 3776m | 独立峰 |
2位 | 北岳 | 3193m | 南アルプス |
3位 | 奥穂高岳 | 3190m | 北アルプス |
3位 | 間ノ岳 | 3190m | 南アルプス |
5位 | 槍ヶ岳 | 3180m | 北アルプス |
6位 | 悪沢岳(東岳、荒川東岳とも) | 3141m | 南アルプス |
7位 | 赤石岳 | 3121m | 南アルプス |
8位 | 涸沢岳 | 3110m | 北アルプス |
9位 | 北穂高岳 | 3106m | 北アルプス |
10位 | 大喰岳 | 3101m | 北アルプス |
涸沢カールから見上げるとザイデングラードの上にある穂高岳山荘と、その右側に視線を移していくと鋭い三角形の尖った涸沢槍が目に入りますがその間に涸沢岳はあります。
おそらく涸沢岳の山頂を目標とする人はあまりいないように思われますが、北穂との間のルートは標高トップ10の山の中でもなかなかの難所ではないでしょうか。まあ何を持って難易度の順列をつけるかにもよるのですが。
山と高原地図では破線(点線)ではなく実線ルートになっていますし、もちろん一般ルートでもここより難しいところはあると思います。
ですがアルパインやバリエーションルートはやらない一般登山道を専らとする登山者にとってはチャレンジのし甲斐のあるルートです。
大キレットを問題なく通過できた経験があればレベル的には大丈夫だと思います。ただしどんなルートにもいえることですが、自分の実力やコンディションをきちんと把握した上での判断が求められます。そこを誤ると事故に繋がる可能性の高いコースです。
今回の行動予定
家を出る時間の都合により初日は上高地に到着するので精一杯なので、2日目から本格的な登山開始です。宿泊はすべてテント泊です。
- 初日 上高地小梨平
- 2日目 小梨平~涸沢カール
- 3日目 涸沢カール~北穂高岳~涸沢岳~奥穂高岳~涸沢カール
- 4日目 涸沢カール~上高地
通常は2泊だと思います。
敢えて3泊にしたのは涸沢ヒュッテのテント場が混雑していると予想し、早めに到着してなるべくよい場所を確保したかったからなのですが、完全に杞憂に終わりました。
初日は小梨平にテント泊
仕事の都合上朝イチに出発できず上高地には17時前に到着。この日は土曜日でしたがこの時間帯となると上高地のバスターミナルや河童橋周辺も人はガラガラ状態でした。
歩いて5分ほどの小梨平のキャンプ場にテントを張りました。一般のキャンパーも利用しているこのキャンプ場は、初日に遅く上高地に到着しなければならない登山者にもとてもありがたい存在です。そんな遅い時間に上高地に到着する登山者自体ほとんどいないと思いますが、時間の都合のつかない自分にとってはこのキャンプ場がなかったら場合によっては登山計画を縮小しなければいけなくなるかもしれないほどのありがたさです。
水場やトイレが近くにあり、熊対策として食材を保管するコンテナが設置されていました。スマホの電波はドコモの場合はほぼ問題なく使えました。ほかのキャリアもさほど違いはないように思いますが、HPによるとキャビンの近くや場所によっては電波が入りにくいとの記載があります。
テントを張る前にオーダーストップ直前の小梨平食堂に滑り込みカレーとビールを注文。本当は山賊焼き定食を食べたかったのですが、揚げ物類はすべて売り切れでした。閉店間際だと俄かに駆け込み客が現れ、店内はほぼ満席状態になりました。バスターミナルから小梨平までぽつぽつとしか観光客を見かけなかったのにどこから湧いてきたのだろうか。
夕食後は自宅から持ってきたアルコール類でさっさと酔っぱらって就寝。荷物の重さと嵩は増えますが、少しでも節約しようと使い捨てのドリンクパックに各種酒類を詰めてきました。ですがビールやチューハイなどの炭酸物と日本酒は現地調達です。一袋300mlなのでワインや焼酎はすぐに無くなりました。ウォッカは最終日に頑張って飲んだので、もう少し少なくてもよかったかも。
2日目 小梨平から涸沢ヒュッテのテント場へ
初日の夕方は遠くで微かに雷の音が聞こえていたのですが雨は降らず、翌朝は雲はそれなりにありましたが晴れていました。
テント泊で持参する食事は酒類で重くなった分、基本的にアルファ化米やドライフードが中心です。ですが朝食にアルファ化米はぼそぼそとして悪く食べにくいので、雑炊にするパターンがほとんどです。雑炊ならのど越しが良く寝起き間もないタイミングでも食べやすいのが理由です。
アルファ化米の白米に雑炊の素と乾燥野菜といった味気ないものですが、朝食はその日のエネルギー補給のためと割り切っています。
朝食を食べてテントと荷物をパッキングして7時少し前に出発しました。この日は涸沢ヒュッテまで約6時間のコースタイムなのでもう少し遅くてもよかったのですが、なるべくヒュッテに近い場所を確保したかったので少し早めに到着するようスタートしました。
約1時間弱で明神に到着です。休憩はせず写真だけ撮って先に進みます。
13時前に涸沢ヒュッテのテント場へ到着しました。だいたい予定通りの時間です。この日は8月最後の日曜日でしたがテント場は結構スカスカ状態。小屋の方もそんなに宿泊者はいなかったような感じでした。まだ8月ということもあり当然紅葉はまだ始まっていませんでした。
テントはヒュッテからわりと近い場所を確保できました。売店や水の補給、トイレなどでなんどもテントと小屋を往復することを考えたら人が行きかう騒々しさは妥協できます。
テントを張ったら早速売店で生ビールとお約束のおでん、更には新たな名物として売り出そうとしている涸揚げなる唐揚げを注文しました。
昼過ぎから雲が多く立ち込めてきたのですが、14時頃から16時過ぎまで雨が降っていました。雨が降り出す前にテントを設営できたのはよかったです。
その後天気は回復したのでこのまま雨が降らなければ、とりあえず明日の登山道のコンディションについては一安心です。
3日目 北穂高~涸沢岳~奥穂高
今回の山行はこの日がメインです。うっかりしてモルゲンロートを見逃してしまいました。天気は良さそうです。天気予報でも午前中は晴れとのこと。
この日も昨日と同様に雑炊を掻きこんで朝食を済ませました。昨日のうちにアタックザックに水とレインウェア、行動食など必要な荷物はパッキングしておきました。十分明るい時間に帰ってくる予定でしたが、念のためヘッドランプももちろん持っていきます。
シートゥサミットのウルトラシルデイパックは20リットルの容量で重量はわずか72gでアタックザックとして使用するととても便利です。使わない時は小さなスタッフバッグに収納してザックの中を圧迫しません。スタッフバッグに入れる時に匠の技も必要としません。
涸沢ヒュッテのテントを6:30に出発しました。まずは北穂を目指します。みるみるテント場が小さくなっていきます。
涸沢小屋の横を通っていきます。ここも宿泊してみたい小屋です。
涸沢小屋を過ぎても目印に沿っていけばルートを見失うことはありません。
このあたりで気付いたのですが日焼け止めを持ってきたのにもかかわらず、塗り忘れていました。北穂への登坂中は結構暑く、予想より多く水を飲んでしまいました。
涸沢のテント場から北穂へのルートはいかにも落石が多そうな雰囲気です。もちろんヘルメット必須です。
梯子で現れましたがさほど危険ではありません。
標高3000mの標識。北穂高は3106mなのであと100mちょっと上がれば頂上です。
北穂と奥穂との分岐にきました。ここまで来たら頂上直下です。ちなみに北穂小屋のテント場は小屋からちょっと離れた場所にあります。小屋に買い物やトイレに行ったりするには結構大変だと思います。
北穂高岳の頂上に到着しました。北穂に登ってこんなに天気がよかったのは初めてです。
周りを見渡すと奥穂や前穂などが見えますがやはり一番特長的なのは槍ヶ岳ですね。
北穂高小屋で野菜ジュースを購入。一気に飲み干しました。飲み終わった後に名物の赤紫蘇ジュースかレモネードにすればよかったと気付きました。
北穂小屋のテラスからの眺めは格別です。
次に涸沢岳をめざします。一見ルートが見えませんがよく見るとペンキの印が至る所にあります。ガスっていたら話は別ですが、視界良好ならルートロスはしないと思いました。
手掛かりや足場になるような岩の段差は結構あるのですが、踏み外して滑落したらひとたまりもないようなところなので慎重に進みます。
ここのクサリ場は慎重に行けばムリなく通過できます。もちろん雨で岩の表面が濡れていたら難易度は上ります。
このあたりは奥壁バンドという難所で滑落多発エリアのようですが、さもありなんといったルートです。今回北穂⇒涸沢岳の反時計回りでしたが、逆の涸沢岳⇒北穂の時計回りだと下りが多くなりより危険度はアップしそうです。なので次回は時計回りで通過したいと思いました。写真に写り込んでいるストックは誰かの忘れ物です。
写真だとごく普通の山の斜面ですが、実際にルート上にいるとなかなかスリリングな雰囲気です。足元を写せば伝わったかも。
個人的にはこういったルートは好きです。見ているだけでワクワク感が上ります。
写真がピンボケですが梯子も出てきます。
今回最もスリリングだったところ。杭に足を掛けて登りますが、下は底なし状態。本当はこんな場所で写真も撮らない方がよいのかも。
涸沢岳から見たジャンダルム。
涸沢岳の頂上はゆっくりできるようなスペースはなく狭い場所に山頂の標識があるだけです。縦走の途中に位置するというだけでなく、このような山頂のそっけなさも涸沢岳の存在を地味にしている理由のひとつかもしれませんね。
涸沢岳から穂高岳山荘まではこれまでとは打って変わって危険度が下がった斜面を15~20分ほど下って到着です。穂高岳山荘もそんなに混んでいる感じではない様子でした。ちょうどお昼時にだったのでラーメンを注文。ビールも飲みたかったのですが、この後奥穂に登ってザイデングラードを下るのでスポーツドリンクで我慢。穂高岳山荘は電子マネーが使えました。涸沢ヒュッテ周辺よりも北穂から奥穂間の方がスマホの電波は不自由しません。
奥穂に登り始める頃には雲が立ち込めてきました。どうやら頂上からの展望は望め無さそうです。
頂上に着いても残念ながらガスったままでした。奥穂高の登頂は2014年以来です。
- 06:30 涸沢ヒュッテ
- 08:57 北穂高岳テント場
- 09:05 北穂高南峰
- 09:20 北穂高小屋 休憩
- 09:48 北穂高南峰
- 10:06 ドームの頭
- 11:07 涸沢岳
- 11:45 穂高岳山荘 昼食
- 12:49 奥穂高岳
- 13:23 穂高岳山荘
- 15:02 涸沢ヒュッテ
時間とポイントはヤマレコのデータを基にしています。
最終日 涸沢~上高地
最終日は快晴でした。今日は上高地へ下るだけです。
暑いと思ったら7:30の時点でヒュッテの温度計を見たら30℃!
さっさと荷物をまとめて8時前に下山を開始しました。本谷橋までの下りは登山道が日陰になっているところが多く、気温の割には涼しく行動できました。
急ぎたいところですが横尾の手前で回りを見渡すとなかなかの景色が見られます。
12時になる頃に河童橋に到着。初日は夕方でしたので人はまばらでしたが、この日はお昼ごろの時間帯とあってそれなりに観光客の姿が見えました。