夏山でテント泊や縦走を何度か経験すると次のステップとしては冬山が待っています。白銀に覆われた山々は夏山とはまた違った魅力にあふれています。
夏に登ったことのある山でも冬はあらゆる面でまったく様相が異なってきます。冬山は夏山とはまったく別物と考えてください。遥かに危険です。ですがやみくもに恐れる必要もありません。
いざ冬山に挑戦しようと思っても夏山とどう違うのか、あらかじめ知識として知っておく必要があります。ぶっつけ本番は絶対いけません。
年中登りたいなら雪山登山は魅力的なアクティビティです。もちろん冬でも積雪のない山を選んで登ったり、冬は登山はせずに無雪期だけ登るスタイルもありですが。実際に登山のハイシーズンは夏です。
躊躇してしまう積雪期の登山ですが、幻想的な雰囲気は冬山独特の魅力です。そんな冬山登山を始めるにあたって無雪期での登山との違いをピックアップしました。
冬山はキケン?
世間では冬山は危険というイメージがありますが、それは間違いではありません。まったくそのとおりです。
「山を舐めるな!」というお決まりのセリフがあります。落ち度があった登山者にいかなる理由にもかかわらず頭ごなしにこの言葉をぶつける風潮にはうんざりですが、雪山に限らず例えハイシーンでも登山においては細心の注意を心掛ける必要があります。
雪山ではより細心の注意を求められます。たとえベテランといわれる登山者でも緊張感なしでは雪山に入りません。夏山より危険度が増すことは確かと言えます。
冬山と夏山の違いを知る
雪の積もった冬山は夏とどう違うのか?その違いを把握しておくと、ある程度リスクを下げることができます。
誤解を恐れずに言うと無雪期は体力にモノを言わせてなんとかなることもあります。ですが雪山では体力に加えて、技術と知識が要求されます。
気温が低い
まず何といっても寒い!山では真夏でさえ日が暮れると寒さを感じるときがありますが、冬ともなるととにかく寒い。寒さが身にしみるどころか、突き刺さります。
ですが行動していると身体が発熱し暑さを感じ汗をかくこともよくあります。この汗が低体温症を引き起こす原因となるため、発汗をできるだけコントロールするよう心掛ける必要があります。
標高が100m増すと気温は0.6℃下がります。高い山ほど当然気温が低くなるのは当然として風の影響も無視できません。樹林帯では無風に近くても森林限界付近では暴風で体感温度が更に低く感じる場合があります。風速1m毎に体感温度は1℃ずつ下がります。
装備が増え、軽量化が困難
積雪期の登山では必要な装備が増え、且つ嵩張ります。
ハードシェル、フリース、ダウンなど夏山よりも準備するウェアの数が違います。手袋も夏は薄手1枚ですが、冬は2重3重と重ねて使用するので予備も含め何枚も持っていきます。ピッケルやアイゼン、ワカンなど冬山ならではの装備も必要です。テント泊ならシュラフやマットも厚手になり、ザックを圧迫します。
ほかにもサングラスやゴーグル、厚手の帽子など荷物の量はどうしても増えてしまいがち。登山において軽量化は重要ですが、冬山登山では装備が重くなるのは避けられません。夏山と比べ冬山では軽量化するのと引き換えに命の危険性が増すことの意味合いがぐっと強まります。
行動時間が短い
冬は日照時間が短いため、それに伴い行動できる時間も限られています。日の出、日没ともに夏より2時間以上差があるので単純に4時間以上短くなります。勿論冬は西日本より北海道の方が日照時間が短くなるといった経度による地域差はありますが。
登山は日が出ているうちに行動が原則です。冬山登山に限りませんが、時間内に目的地に到着できない場合、早めに撤退する判断力が命を救うことに。行動時間の短さは焦りを生み出します。
同じ距離でも所要時間が無雪期と違う
無雪期に1時間で歩けたコースでも雪が降って歩きにくくなったり、装備が重くなるために体力を激しく消耗し2~3時間をかかったなんてことも珍しくありません。
雪や氷の上を歩く技術が求められ、アイゼンやワカン、ピッケルを使いこなす必要があります。トレース(踏み跡)がなければラッセルを強いられます。ラッセルしながらだと1時間でほんの数十メートルしか進めないなんて場合もあります。
計画段階で夏山と同じ時間で歩ける前提は成り立たちません。無雪期以上に時間に余裕を持たせて計画しましょう。
逆に無雪期には段差が激しいコースが、雪が降ったことにより歩きやすくなるケースもありますし、曲がりくねった登山道をショートカットできることもあります。
ルートが夏山と違う場合がある
登山地図は基本的に夏山のルートが示されています。冬は雪により登山道が埋まり、自分でルートを選ばなくてはいけない場合もあります。夏山のルートがわかっていてもアイスバーンや雪崩た跡を避けて安全で歩きやすいルートを判断しなければなりません。
場合によっては地図とコンパスを使って現在地を把握する必要があります。地図読みの重要性が問われます。
レイヤリングの重要性
夏の暑い時期ならTシャツ1枚で登ることもありますが、気温が下がると当然重ね着して寒さから体を守ります。夏とは比べ物にならないほど、レイヤリングには気を使います。
登り始めは寒さを感じても、次第に身体が発汗して暑さを感じるようになります。汗を掻きすぎないよう歩くペースを意識するのはもちろんですが、面倒くさがらずウェアの脱ぎ着をこまめに行って体温調節を行います。
ベースレイヤーは汗冷えを防ぐために吸汗拡散機能が必須です。ベースレイヤーをケチってはいけません。
暖かさはミドルレイヤーが請け負います。フリースやダウン及び化繊などのインサレーションなど。アクティブインサレーションは行動中の汗ムレを軽減してくれる優れモノです。
アークテリクスのアトムLTはおすすめのアクティブインサレーションです。
稜線に出ると風が一気に強まり体温を奪っていきます。このとき防風性のあるアウターウェアがないと命取りとなります。ハードシェルや条件によってはレインウェアで風を防ぎます。
レイヤリングについては基本を抑えつつ、経験を積みながら試行錯誤して自分にとってベストな組み合わせを探っていきます。勿論条件によりベストなレイヤリングの組み合わせは変わってくるので、正解はひとつではありません。
山小屋の営業状況が違う
山小屋の多くは秋の終わり頃に営業を終えて翌春に再開することが多く、積雪期では営業している小屋は限られています。但し冬期には休業していても年末年始だけは営業している山小屋もあります。
例え通年営業の小屋でも冬には臨時で休業している場合もあるので注意。予定コースの周辺にある小屋の営業状況を把握しておくのは安全確認の一環です。
積雪期には小屋の営業はやっていなくても避難小屋として一部開放されているところもあります。
登山者の数が違う
冒頭にも書きましたが登山のハイシーズンは夏です。紅葉の時期も山は登山者で賑わいます。
それに比べ冬山は登山者の数が激減します。人の少なさは冬山の魅力のひとつでもありますが、深刻なトラブルが起こったときに周りの人の助けが期待できないことを意味します。勿論登山は初めから他人を頼りにすることを前提にしてはいけません。頼るのは最後の手段です。
気象条件が厳しい冬山ならではのリスク
ここからは冬山ならではのトラブルをあげます。気温が低いこと、雪がある状況は様々なリスクを生み出します。
低体温症
冬山で低体温症にかかると意識が朦朧として行動できなくなります。体力を消耗した状態で寒さに晒されることで内臓など身体の中心部が冷えていく症状です。
外からの寒さを防ぐことだけでなく、吸汗速乾性のベースレイヤーを着用し汗冷えしないことが肝心です。寒さを防げないレイヤリングはNGですが、逆に厚着しすぎて汗をかいてしまうのもいけません。
更に睡眠不足やエネルギーの摂取不足なども低体温症を引き起こす原因となります。
低体温症は冬だけのリスクではなく、条件が合えば夏でも起こり得ます。
雪崩
低体温症と並んで冬山の大きなリスクといえる雪崩。雪崩が起きそうな場所をなるべく避けるのは当然ですが、ルート上どうしても通らないといけないときは素早く移動すること。
万が一雪崩に巻き込まれてしまったら、「泳ぐ」「もがく」動作をして雪崩の下部にいかないようにして顔周りに呼吸のためのスペースを確保と言いますが、どこまできるのかは運頼みです。
雪崩に埋まってしまった人を救い出すためにビーコンやショベル、プローブなどがあります。
凍傷
心臓から遠い手足の指先や顔は凍傷にかかりやすくしっかりとした防寒を。
なるべく肌を露出させないことで凍傷を防ぎます。厚手の靴下や帽子、バラクラバはもちろん、手袋選びは指を凍傷から守るのに重要です。
手袋は風で飛ばされたりしたときのために必ず予備が必要です。
ホワイトアウト
雪や霧であたり一面真っ白になり方向感覚がなくなり、どちらに進んでよいかわからなくなります。平衡感覚や距離感もおかしくなり、心理的にも不安が大きくなるため判断力の低下につながります。
時にはほんの数メートル離れただけで視界が利かなくなることも。複数のパーティの場合、仲間を見失わないようザイルでお互いを繋いで行動します。
雪目
太陽光が雪に照り返され、紫外線の量が増加し目にダメージを与えます。角膜の表面が傷付き目の痛みや充血、眩しさを過剰に感じる、異物感などの症状がみられます。
行動中はちょっと眩しいくらいなので何もせずそのままでいると、ダメージを受けてから6~10時間後に発症します。
ゴーグルやサングラスで目を保護しましょう。紫外線を繰り返し浴びていると、深刻な目の病気の原因となる可能性があります。
まとめ
積雪期の山は夏山とは違い条件は厳しく登山者により高いレベルが求められます。ですがリスクを理解し必要な知識と技術、体力、正しい判断力をもって挑めば必要以上に恐れる必要はありません。
冬山に限らず登山にはリスクは付き物ですし、どんなベテランや熟練者でもそのリスクをゼロにすることはできません。登山では限りなく危険を避ける判断や行動が必要です。
自分の登山レベルを考慮し、それに適した山やコースを選ぶことで冬山の経験値を上げていきましょう。
雪山の神々しいく静粛な雰囲気に魅せられる登山者は多くいます。雪山登山最初は難易度の低い山に複数で行くこと、信頼できるベテランがいなければガイドを付けるのもありです。
いままで高価格帯の代名詞であるアークテリクスという名前だけで敬遠していましたが、ここ数年登山界で注目されているアクティブインサレーションを探しているうちにアトムLTに行き着きました。これまでは冬山ではフリースの上にアウターを着ていたので[…]