毎年やって来る梅雨。梅雨が好きという人はあんまりいませんよね。過ごしやすい5月はあっという間に過ぎてしまい、だんだんと雨の日が多くなり、湿度も上る梅雨の季節がやってきます
1年のうちでもっとも嫌われている季節は冬だそうですが、嫌いな月といわれれば梅雨の真っ最中である6月は確実に上位に入ることでしょう。祝日もありませんしね。良い点は日照時間が長いことと山小屋が混雑していないことくらいでしょうか。
雪山にはまだ足を踏み入れる前の登山初心者にとっては気温も上がり、さあこれから山のシーズンが始まると思っていたところで梅雨になり天気予報の雨マークを恨めしく眺めることになります。山に登れない週末をガマンできず、雨なのにもかかわらず結局山へ向かってしまう登山者はいわゆる好山病に罹っています。
梅雨の時期に登山に行くなら
数少ない晴れの日にやっと巡り合えても雨の日が続いた後だと登山道のコンディションは回復しておらず、地面はぐちゃぐちゃな状態であることも珍しくありません。川や沢は増水している可能性があります。晴れの日に鉄砲水が襲ってくるとは思わないかもしれませんが、大雨や長雨の後ならあり得ることです。
ぬかるんだ登山道は歩きにくくスリップや滑落の危険も増します。そのような事故を起こさないよう、いつも以上に注意力も必要となるため心身共に疲労します。そんな疲れた体と心を癒してくれるはずの絶景も雨が降っていたら望めません。
そのようなことを踏まえ経験の浅いうちは標高があまり高くなく、稜線や岩場を避けたルートを選びましょう。もし稜線歩きのすばらしさを知ってしまっていたら樹林帯は退屈に思えるかもしれませんが、雨の降る中で歩くと緑が映えていつもとは違った雰囲気を味わえます。梅雨は一年のうちで最も日照時間の長い時期ですが、コースタイムは長すぎないほうが賢明です。
何日間も断続的な雨が降っていたら土砂崩れや鉄砲水の危険があります。危ないかもと感じたら躊躇わず登山を中止する決断力が危険から身を守る決め手となります。
梅雨の時期は夏のハイシーズンの前哨戦と考え、あまり気合の入ったコースを選ばなければ未練もありません。この時期の登山は延期や中止のハードルを低く設定しておくのもひとつの考え方です。せっかくの夏休みだと力いっぱい後ろ髪を引かれるかもしませんが、この時期は本番前です。
とはいっても天気が良くないからと登山の予定を翌週にずらしても、またもや雨でしたということが他の季節よりも起こりがちです。ソロではなく他の登山仲間と一緒だとリスケが難しいかもしれませんね。
・稜線や岩場はなるべく避ける
・長すぎないコースタイム
・登山の中止や延期は気軽に
雨の日の登山のポイント
梅雨の時期に限らず雨天での登山にいえることですが、なんといっても濡れへの対策が肝心です。登山道はぬかるみ、注意力はいつも以上に必要とされ、ダダ下がりのテンションの中で精神力も求められます。
関連記事:雨の日の登山に便利なアイテム
レインウェアは必須
登山に行くときは例え晴れ100%の予報でも持っていくのがレインウェア。初心者のうちは雨合羽でいいというワケにはいきません。必ず登山用のレインウェアを購入してください。絶対にです。
雨の日に注意しなければならないのは低体温症です。晴天でも汗をびっしょり掻いた状態で風を受ければ低体温症の危険がありますが、雨が降っているとその危険度は更に上がります。レインウェアは命を守ってくれる最重要アイテムの一つです。
アマゾンでアウトドア用のレインウェアを探すと10,000円もしない一見本格的そうに見えるものがいろいろヒットしますが、レインウェアはケチらないほうが賢明です。最近はワークマンで低価格ながらある程度の性能も担保された製品も出ていますが、どれがよいのか迷ったら初心者の方におすすめなのはモンベルのストームクルーザー。1着目に選んで間違いありません。ジャケットだけでなく必ずパンツも用意すること。
ポンチョは通気性が良いのでレインウェアよりも蒸れませんが、使える環境が限られますので代わりにはなりません。もしポンチョを持っていくとしても、必ずレインウェアも持参するのが鉄則です。
一般的に登山において雨が降ったら問答無用でレインウェアを着用みたいな常識があります。初心者が登山用品店で店員さんに勧められるのがゴアテックスのレインウェアです。そのことは勿論間違っていないし、レインウェアは登山靴、バックパックと並ぶ登山に[…]
ザックの中の荷物の収納場所
急な雨にも対応できるように雨具はザックの取り出しやすい場所に収納しましょう。天蓋やザックの上部など雨具を取り出すのに手間取らないポジションは優先順位を考えてパッキングします。また、ある容量以上のザックなら荷物を取り出しやすくするためのジッパーが正面についているタイプもありますし、2気室タイプならザックの中へのアクセスポイントが多くなるのでその分荷物の取り出しがしやすくなります。
レインウェアはマストアイテムですが、ほかにもレインハットやレイングローブといった装備を持つ場合も取り出しやすい場所に収納しておけば雨が降り出した際に即座な対応が可能です。
登山道のコンディション悪化
登山道が濡れていたいり、ぬかるんでいれば当然スリップや転倒のリスクが上ります。岩場や梯子を通過するときはいつもより慎重になるものですが、木道や表面が平べったい石も滑りやすい状態になっており油断しているつもりがなくても足を取られたりします。特に木の根は雨が降っていない時も滑りやすいので、普段から足を置かないよう習慣づけましょう。
川や沢は増水していることも多くいつもは渡れるような場所でも、近づくのも危険な状態になっている場合もあるので迂回や撤退を迫られることも。普段枯れ沢になっている場所は大雨になると水が流れこんでくることもあるので危険です。
雨が降っていると所要時間も長くなりがちなので、コースを選ぶ際にはいつもよりタイムを多く見積もっておきましょう。
装備の防水対策
まずは靴とザックに防水スプレーを掛けておきましょう。あとトレッキングパンツの裾にもスプレーしておくのもおすすめです。
ザックカバーはあったほうがいいといえますが、雨対策として荷物を守るのにザックカバーだけでは不十分です。ザックカバーは風が強いと煽られて危険な場合もありますし、隙間から雨が滴り流れてくるので完璧とはいえません。どうせザックは汚れたり濡れたりするものと割り切ってザックカバーを使わない登山者もいます。カバーをしていると中の荷物を取り出すのに手間が掛かるというデメリットもあります。
ですが山小屋や車にザックをびしょびしょな状態で持ち込むことになったり、ザック自体が水分を吸い込んで重くなってしまうなどカバーを使わないデメリットもあります。ザックカバーを使うかどうかはその登山者の考え方や登山スタイルに依ります。
そしてザックカバーより遥かに大切なのがスタッフバッグで荷物を濡れから守ることです。ザックカバーをしていればザックの中に侵入してくる雨の量は減らせますが、いづれ荷物は濡れてしまいます。そこでスタッフバッグの出番ですが、必ず防水タイプを選ぶこと。口をヒモでしばる巾着型は防水性ではありません。絶対に濡らしたくない荷物はクルクルと巻いて閉めるロールトップ型にいれましょう。
登山では防水対策としてジップロックを使っている人が多くいます。すべてスタッフバッグで賄おうとするとそれなりに値段がかかってきますが、ジップロックならコストもさほどかかりません。中身が見えるのもジップロックのメリットです。
ビニール袋は耐久性が低く、山小屋では早朝にガサガサやると他の登山者から嫌がられます。ただしビニール袋も靴を履いたままレインパンツを履いたりと便利な使い方もあるので、持っていかないほうがいいというわけではありません。
スマホやカメラ、バッテリーなど濡らしたくない機材にとって防水対策は重要です。衣類と違って乾けば良いとワケにはいきません。オジャンになったら経済的に大きなダメージになります。スマホやカメラの場合、スタッフバッグより専用の防水ケースやポーチの方が使い勝手が良いです。
不快指数による影響
雨の日の登山でやっかいなのは、降ってくる雨そのものよりも湿度です。雨から体を守るためにレインウェアを着ても、空気中の湿度と自分の体から出る汗で不快指数は上ります。
登山用のレインウェアは雨合羽と違い、外からの水滴は通さず汗は放出する防水透湿性を謳ったものが多くありますが残念ながら蒸れます。解決策のひとつとしてベースレイヤーの下にドライレイヤーを着ると汗を吸いだしてくれるので、肌ざわりが良くなるだけでなく汗冷えするリスクも下がります。
但しどんなに対策をしていても雨の日は蒸れてしまうのはほぼ確実です。人間は不快指数が上ると注意力や判断力が低下するもの。注意力の低下は怪我のもとですし、早く目的地に着いて乾いた服に着替えたいが為に先を急ごうとして判断を誤ったりします。
雨の日の登山にはムレムレで不快極まる環境を静かに受け入れる、ある種の諦観の境地が必要です。
行動食や水分補給がサボりがちになる
雨が降っていてもこまめな栄養と水分の補給は必要です。いつものようにサコッシュやウエストポーチからサッと行動食を取り出せないと、面倒くさく感じてついつい疎かになりがちです。雨の中でザックを下ろすのは本当に億劫に感じますよね。
水分補給はザックを下ろさなくてもよいペットボトルホルダーやハイドレーションが便利です。雨中の行動はいつもより体力を消耗しますし、発汗によって体内の水分が不足している状態でも暑さを感じていないと水分補給を忘れてしまいます。
雨の時の行動食はさっさと口に運びたいので、一つひとつ包装紙を開けるようなものはストレスになります。また菓子パンやおにぎりのような一口で食べきれない大きさのものは雨に当たって気分を害します。気にしなければいいレベルの話ですが、できれば一口で食べきれるサイズのものやゼリー飲料のように雨の中でもあまり影響のないものを選ぶのがポイントです。
もし登山道の途中に東屋を見つけたら栄養補給のチャンスです。激しい雨の場合、東屋から出たくなくなります。
着替えの用意
濡れた衣類は早く着替えたいもの。きちんと防水対策をして着替えを持っていきましょう。梅雨の時期に限りませんが、連日雨が続くようなら荷物が増えるのを厭わず着替えを1セット多めに持つと安心です。
雨に打ちひしがれていても、ザックの中に乾いた着替えがあると思うと心の励みになります。日帰りでマイカーの場合は車の中に着替えを積んでおくこともあると思いますが、万が一のことに備えてザックにも着替えを入れておきましょう。
まとめ
登山をやっていればそんなに経験を積まないうちに必ず雨の日にあたるものです。ましてや梅雨の時期なら雨に当たらない方がラッキーです。雨の日の登山を楽しみましょうといった意見もありますが、正直に言って晴れの日と比べると満足度には雲泥の差があります。
ですが雨に打たれてウンザリしながらやっと下山した後に温泉に浸かった時と、そのあと乾いた服を着た時の喜びはまた格別です。
雨に降られながら経験した不便さと我慢はやがて自分の中で財産になっていきます。雨の中の登山経験がないまま、山のレベルを上げていってしまうのはよく考えてみれば怖いことです。そういった意味でも梅雨の時期の登山は学ぶことも多くあります。